【書評】なぜ「力こそ正義」はよみがえったのか|『レコンキスタの時代』で読む“強権の世界”の正体

この本は何を“説明”してくれるのか:世界を貫く合言葉は「レコンキスタ」

ロシアのウクライナ侵攻、中国の台湾統一への執念、東南アジアへの進出、トランプの「米国ファースト」、ヨーロッパでの極右勢力の台頭——。
この十数年の世界情勢は、出来事だけ追うと「同時多発の混乱」に見えやすいです。

本書がうまいのは、そうした事象をただ並べるのではなく、いわば時代の空気=「ツァイトガイスト(時代精神)」(p.2)として束ね、さらに「失地回復(レコンキスタ)」をキーワードにして、強権指導者=「ストロングマン(強権指導者・独裁者)」(p.4)の世界観から読み解こうとするところです。

読後に残ったのは、「力の論理が復活した」という説明そのものよりも、
“それがなぜ復活したのか”を、因果と経過で追える感覚でした。
ニュースの断片が一本の線に繋がる、というタイプの読み心地です。

加えて、この本の出自として、共同通信社が2022年3月から2025年4月にかけて配信した大型国際インタビュー『レコンキスタの時代』を全面改訂したものだと明記されています(p.320)。
ここが「骨太のルポ」としての厚みにつながっている印象でした。

「2012年が分水嶺」でも、準備はもっと前から始まっていた

著者は「12年は『レコンキスタ(失地回復)の時代』への分水嶺だった」という見立てを置きます。
体感としても、確かにこの頃から“世界の前提が変わった”感じは強まったと思います。

ただ、読んでいて強く思ったのは、分水嶺は「突然の転換」というより、
冷戦終結とグローバル化の流れのなかで、じわじわと準備されていたものが表面化した、ということです。

その象徴として印象的だったのが、米クリントン政権の労働長官を務めた経済学者ロバート・ライシュが、2010年の著書で次のような未来を予測していた、というくだりです(p.59)。

  • 不法移民へのゼロ・トレランス(例外なき取り締まり)
  • 全輸入品目の関税引き上げ
  • 国際機関からの脱退と対外関与停止

この箇条書きは、今の世界を見ていると「予言みたい」に読めてしまう。
正直、「見えている人には見えているんだなあ」と驚きました。

ここが本書の強さで、出来事の“当て解説”ではなく、
そうなる下地が社会に積もっていたことを、取材と整理で見せてくる感じがあります。

驚いた2点:分断は深く、戦争は“前線の外”まで壊していく

1) 「暴力は正当化される」と答えた人が10%(p.244)

2024年の全米世論調査で、トランプ復権を阻止するために「暴力は正当化される」と回答した人が10%に上った、という記述が出てきます(p.244)。

この数字が刺さったのは、暴力や過激化が「右派だけの現象」と思い込みがちだからです。
現実はもっといやらしくて、分断が深まるほど、正義の名の下に“手段のハードル”が下がっていく。
ここに、民主主義のしんどさがあるという印象でした。

2) 「難民を武器化」するという発想(p.260)

もうひとつは、シリア内戦におけるロシアの無差別攻撃が、欧州難民危機の大きな原因となっただけでなく、
欧州社会を不安定化・分断するための意図があり、ロシアはいわば「難民を武器化」(p.260)した、という指摘です。

「戦争=戦場の話」だと思っていると、ここで視点がひっくり返ります。
人の移動、社会の分断、政治の不安定化まで含めて“戦い方”になっている。
この章は、読むほど気分が重くなるのに、目を逸らすと理解が止まるタイプのリアリティでした。

ニュートラルな取材の価値と、あえて残る物足りなさ(結論)

本書は、愚かで一方的な言説をSNSで撒き散らす「自称ジャーナリスト」とは、明確に距離がある印象でした。
丁寧な取材とニュートラルな記述で、相手の論理(たとえ不快でも)を解剖していく。
この“冷静さ”は、今の時代にむしろ貴重だと思います。

一方で、読後に残った小さな不満もあります。
それは、日米関係を含む日本の外交・安全保障については、ほとんど触れられていない点です。
「日本に安易に触れない」姿勢は好感でもある反面、読者としては“自分ごと”に接続する導線が欲しくなる場面もありました。

そして本書は、こんな問いで終わります(p.319)。
「われわれは今、力が信義をなぎ倒す荒れ野にいる。……アメリカは、われわれと共にいるだろうか?」

反語なのかもしれません。
ただ、読後に残るのは「答え」ではなく、問いを抱えたまま世界を見直す視点です。

こんな人におすすめ

  • ニュースが断片的に見えて、全体像を掴みたい人
  • 地政学・国際情勢を「現代史の流れ」で整理したい人
  • “正義が通用しない感じ”を、感情ではなく構造で理解したい人

先に知っておくと良いこと

  • 日本の外交・安保に直結する議論は薄め(ここは別途補完が必要)
  • ただし、その分「煽り」ではなく「整理」に寄っている

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